リレー小説【ホラー編】 - 3/7

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丑三つ時と呟いて、松田は手元の携帯端末を弄る。何時頃だか調べているのだろうと思ったら、非科学減少を信じないと言いながら興味はあるらしい様子に思わず笑ってしまった。 「装備品確認しておくか」 続けて言うのに、萩原は首を傾けた。 「幽霊に物理攻撃って効くのか?」

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「ぬ、ゾンビ相手ならいくらでもやりようがあんのにな」 「もっと、効果的な方法があんぜ?」 なんだよ、と怪訝な顔する松田に萩原は顔を寄せた。 「幽霊は、エッチが苦手なんだと」 「は?」  そして一瞬だけ唇に触れた。萩原の笑顔に、松田も思わず破顔する。

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「ここでヤったら当初の目的から逸れちまうけどな」 ぺろりと松田の薄い唇を舐めて離れると、残念そうにその唇が尖った。 「ま、そう拗ねなさんな」 明るく言う萩原に松田はその背を抱き寄せてサングラスの隙間から睨んだ。 「お前が協力しろつったんだから、あとでキッチリ報酬は貰うからな?」

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そのまま布団に倒れ込む。ファブリーズの匂いがした。ここが家なら確実に目の前の狼に襲われてたな、と萩原は思う。 布団に寝転びながら、他愛ない会話をしたり、しりとりをしている間に、いつの間にか軽く眠ってしまった。 夢を見ているな、と感じた瞬間、「おーい」と呼ぶ声がした。

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薄く目を開くが、目の前の相棒はまだ眠っている。寝言か、と目を閉じると、再び声が聞こえた。 「おーい」 その声に萩原が一瞬で覚醒した。この部屋にはお互いしかいないし、松田はうなされることはあっても寝言はほぼない。いま聞こえた声は一体。 「……おォーーい」 外から呼ぶような、遠くへの声。

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それは扉の向こうから聴こえた。 「おーい、すみませーん」 すみません、なんだ、後輩か。と萩原は安堵する。 「今、仮眠中だから後にしてくれ」と扉の向こうに言うと、相手は「すみませーん」と気配が消えた。やれやれ、タイミングが悪い。萩原は水を飲み、再び目を閉じた。 「おーい、すみませーん」

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誰の声だろうか。聞いたことがあるような、ないような。 トントン、とドアを叩く音がする。 「おーい、すみませーん」 同じ声がする。萩原はベッドから起き上がってドアの前に立った。 再びドアを叩く音がする。さっきより少し強い音、ドンドンと拳で叩く音だ。

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「だから、仮眠中だから」 そう言うと、さっきと同じように「すみませーん」と消える。そして……、数秒しないうちに「おーい、すみませーん」とドアを叩く。 「んだよ、うるせーな」 いつの間にか起きていた松田が今にもドアに向かいそうだったので引き止めた。 「松田、行くな」

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「んだよ、ハギ……」 ぐっと強く腕を掴んで引き止めると松田も気づいたようだ。ドアの向こうに声は聞こえても人の気配がない。 「おーい、すみませーん」 再び聞こえてくる声は先程から繰り返し、絶妙に抑揚がない。開けるなよ、と松田に再度いい含めてから萩原はドアの間近で様子を窺う。

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「こういうのは、許可をするとだめなんだ」 そう、これはあちら側がこちら側に侵入してこようとする儀式だ。こちら側が許可をしなければ、あちら側のナニカは入ってこられない。 しばらくすると、ドアを叩く音も声も聞こえなくなった。萩原は慎重に様子を窺おうとしたが、松田は遠慮なく扉を開ける。