リレー小説【ホラー編】 - 4/7

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「喰らえぇッ!」 松田の怒号が深夜の仮眠室に響く。同時にドアの向こうにファブリーズを噴射する。何度もスプレーを吹いたが、気配もなく、怪異の類もない。ただ、爽やかな香りが辺りに漂うだけだった。 「……なにもいないな?」 「チッ……逃したか」 なんでこんな好戦的なの、と萩原は苦笑した。

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「まだ遠くには行っていないな?」 松田、それは悪役の言うセリフだ。 「追跡する、お前はここで待機だ」 「なんて?」 なんでこの男はこんなにはりきってんだ?という疑問も解消されないまま、松田はファブリーズ片手に廊下へ飛び出した。 「松田!」と叫んであとを追いかけようとしたが、いない。

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「……どうやって追跡するつもりなんだろ」 まぁいい、待機と言われたしこちらで出来ることをしよう。そう呟いて袋から二本目のファブリーズを取り出した。 そういえば今日の当直は元々自分と部下のうちの1人だったことを思い出した。松田はおまけである。走っていった彼に怯えていないといいが。

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廊下を進んでいた松田はあることに気がついた。窓の外が暗闇に包まれている。夜なのだから暗いのは当たり前なのだが、ここは眠らない街、新宿のど真ん中だ。歌舞伎町がある繁華街から離れているとはいえ、人工灯は多く夜中でも足元がはっきり見えるほど明るい。そのはずだが、窓の外は暗闇だった。

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足を止めると、リノリウムの床をひたりひたりとなにか濡れた裸足で歩くような音がする。足音は次第に幾つも重なって、どこかへ向かうようだ。そういえば外の音も聞こえない。夜中とてトラックやタクシーの走る車の音が聞こえてくるのが常だが、今夜はやけに静かだった。 「……どうなってやがんだ?」

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こんな時、怪異よりも真っ先に「なにかしらによる大規模停電」を疑う警察官松田だったが、そのわりに大規模停電中における特別警戒の呼び出しがないことに首を傾げた。一応自家発電を備えているが、まさかスピーカーがやられたか?と上を見上げた途端に廊下の電気も消えた。すかさず懐中電灯を点ける。

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一瞬、白い影がうつる。視界の隅、思わずそちらにファブリーズをかけたが、誰かが落としたのかティッシュが一枚落ちていただけだった。 「……んだよ、ゴミくらい捨てろよな」 拾ってゴミ箱に放り込むと、ゴミ箱からガサガサと音がした。中に何か、アレの類がいるのか。覗き込む気にはなれなかった。