リレー小説【ホラー編】 - 5/7

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ファブリーズをベルトに引っ掛け、スマホを取り出すと萩原にかける。すぐに、どうした?と返事があり「停電したから地下の配電盤を見に行く」というと「停電?」と返ってきた。「こっちは普通に電気付いてるぜ?」というので部分的に不具合が出てるのだろう。その確認も含めて地下へ向かうことにした。

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「停電じゃなけりゃどっか断線してやがるなこれは」 修理が必要となる気配を察知、松田は地下に向かう前にとオフィスの自席にある工具箱を取りに向かう。真っ暗な廊下は夏特有の生ぬるい空気が漂っていた。オフィスに入ると、懐中電灯の明かりを頼りにデスクへと向かう。足元に工具箱があるはずだ。

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デスクの下に屈み目的の工具を手にする。そこで室内から声が聞こえた。 「もう無理ですよ」 はっきりとした声だった。今日の当番は松田班以外の隊員だったが、あらかた8機の隊員は覚えている。が、聞いたことがない声だった。 「誰だてめぇ」 と工具を持って立ち上がるが誰もいない。

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工具箱からドライバーを取り出してゆっくりと辺りを見回す。だが、気配は何もない。耳を澄ますと、遠くの方で犬の遠吠えが聞こえた気がした。たぶんこれも、萩原には聞こえていないのだろう。松田はドライバーを腰のベルトに挟み込んで工具箱を小脇に抱えると、ゆっくりとオフィスを出た。

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その頃、萩原は松田からの連絡に疑問を持ち、念の為隊舎に残る隊員に連絡を入れた。事務室にいた隊員はすぐにコールに応える。 「そっち停電なってるか?」 との問いに「明るいですねぇ」という返事。一応、隊舎内の見回りを頼む。 「じんぺーちゃん、大丈夫かな」

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地下に向かうには廊下の先の階段を降りる必要がある。オフィスを出た瞬間、階段とは反対側の廊下から声がした。 「帰りたい……ィィイィ」 奇妙な声で、ノイズ混じりに聞こえた奇声に反射的にファブリーズと懐中電灯を向けた。何も見えないが、松田は躊躇なく液体を噴射して爽やかな香りを撒き散らす。

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階段の手前で、松田は踊り場の端に白い粉を見た。砂や埃ではなく、ライトに照らされたそれは白い粉だった。しゃがんで指先で触れてみる。粒子は大きめでざらとする。 「塩、か?」 誰かが、ここで撒き散らしたのだろうか。

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匂いを嗅いでみる。流石に得体のしれない粉末を舐めて確認する気にもなれなかったが、細かい粒の粒度の粗さと形状から塩のようだった。 「盛り塩か?」 そうであればこちらとあちら、どちらかが内であり、どちらかが外なのだろう。そう考えて、馬鹿らしいと首を振った。考えすぎだ。

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「おーい、松田。何やってんだよ」 聞き慣れた声がして振り向くと、萩原が立っていた。懐中電灯を顔に向けると「しょーがねーなー」と笑った。 「遅いから見にきちまった」 「すまん、道草くっちまった」 「なんだ?塩かそれ」 傍に寄ってきた萩原は隣にしゃがんで撒かれた塩を見た。