リレー小説【ホラー編】 - 6/7

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しゃがみこむ萩原の旋毛を見下ろして、松田は小さく息を吐く。 「待て、ハギ。お前事務室には電気がついてるつってたよな?」 松田は、その旋毛を見下ろしながら問う。手元の懐中電灯はしっかりと、暗闇を照らしている。 「廊下はどこまで電気がついてたんだ?」

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「廊下はずっと真っ暗だったぜ」 まっくら?と松田は復唱する。萩原の来た方向に懐中電灯を向けるが、光の先は闇の中に吸い込まれていった。 「それより、さっさと地下に行っちまおうぜ」 萩原は立ち上がると、振り返ることなく地下へと進んでいった。萩原の体も闇へと吸い込まれていく。

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追いかける前に、萩原の姿が消える。闇に溶け込むように消えたその後姿を見送ってから、松田は思案する。思案して、尻ポケットに突っ込んだ携帯電話を取り出して時刻を確認した。電波は問題なく、充電も十分。だが、なんとなく一本メールを入れておいた。 『地下の配電盤見に行ってくる』

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「おーい、松田ぁ」 闇の中から萩原の声がする。 「絶対に振り向くなよ」 「振り向いたって、何も見えやしねぇよ」 「そうじゃなくて、よく言うだろ?振り向くなよ」 懐中電灯の光が届かない。数段先に踊り場があるはずだが、最大光量300ルーメンもあるライトですら届いていない。

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ライトを揺らしたとてその先にいる相棒の姿は捉えられない。松田は腹を括ってその声の先へ足を踏み出した。階段を降りていく足音がやけに響く。 「振り向いたらどうなるんだ?」 興味本位で尋ねるが返事はない、つまりそういうことなのだろうと納得した。踊り場には辿り着かず、何段も降りていく。

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「松田の好きなものって何?」 闇から声が届く。 「萩原研二」 「へぇ〜」 すでに階段の踊り場を過ぎているはずだが、真っ直ぐに地下に降りてゆく。一瞬、来た道を確認しようとして振り向きそうになるが、忠告は守ったほうがいいと踏みとどまった。

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降りていくと、階下の先も先、ずっと下の方に柔い光を見つける。あたたかそうな色の淡い光だ。 「どこに向かってるんだ?」 それに返事はない。だが、ゆっくりと近づく光に、出口が近いような気がした。配電盤があるのかそれ以外の何かがあるのか。松田は再び尻ポケットの携帯端末を軽く撫でた。