リレー小説【ホラー編】 - 7/7

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光が目の前に来たとき、背後から「おーい」と萩原の声がした。咄嗟に振り向きそうになった刹那、光の中からにょきっと伸びた手が松田の腕を掴む。そして、次の瞬間、肩を揺さぶられて目を覚ました。 「うわ、起きたか」 明るくなった踊り場の端に座り込んだ松田のそばに、萩原がいた。

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目の前にある顔に手を伸ばす。逆光で見辛いが、頬に触れて輪郭を確かめる。次に匂いを確かめた。嗅ぎ慣れた汗と煙草の匂いを深く吸い込んだ。 それを萩原は何も言わずに受け入れて、松田の腕をとって立ち上がらせる。 「……停電は?」 「大丈夫だと思うぜ」 見回すと、すっかりいつもの所内だった。

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廊下の隅に撒かれた塩はそのまま残っていた。萩原は塩を一つまみしてから「これ、盛塩が崩れたんだな。誰かが下手なまじないをして、逆に呼び込んじまったのかも」と言った。 松田は萩原の背に顔を埋めて、体温と匂いを堪能する。その松田を連れて、二人は一応隊舎の見回りをしたが問題はなかった。

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ぴったりと背中にくっついた松田の体温を心地よく感じながら、すっかり静かになった隊舎に安心する。「おんぶお化けかな」と言いながら離れない松田を連れてオフィスに戻った。 翌日、松田のデスクには残り少ないファブリーズが佇んでいた。引き出しには予備があと2本残っている。 了